「ブロックチェーンの実証実験を開始します」ーーー去年の秋ごろから、金融機関が発表する報道資料に、こうした文章を頻繁に見かけるようになりました。

この「ブロックチェーン」は、インターネット上でやり取りされる仮想通貨「ビットコイン」の根幹をなす技術です。ビットコインを考案した「サトシ ナカモト」を名乗る人物が発明したとされています。

では、いったいどんな技術なのでしょうか。詳しくはこれから説明していきますが、まずは、お金の取引記録を改ざんされにくい形でしかも低コストで処理・保管できる技術と頭にとどめてください。

これまでお金の取引に関わるデータは、金融機関などが巨大なコンピューターシステムで管理してきました。1つの管理者が取引データを一元的に処理することから、「中央集権型システム」と呼ばれています。

これに対し、「ブロックチェーン」では取引データの管理者が存在しません。ネットを通じて行われた金融取引のデータは、特定のサーバーに書き込む代わりに、ネット上に保管され、すべての利用者が確認できます。こうした特徴から「分散型台帳」とも呼ばれ、大勢の利用者がデータを共有するため改ざんされにくいとされています。

中核的なサーバーがないため大規模な障害につながりくいうえ、巨額のシステム投資がいらないため低コストでサービスを実現できることも特徴とされています。

「ブロックチェーン」という名前の由来はデータの保管方法にあります。取引データは、一定の量ごとに「ブロック」と呼ばれる塊としてネット上に存在する「台帳」に保管されます。この「ブロック」を鎖のように連続して記録していく形態から「ブロックチェーン」と呼ばれています。

データが改ざんされにくく、しかも低コスト。こうした特性を生かして、金融機関やIT企業の間では、大手からベンチャーまで、ブロックチェーンの技術を応用した新しい金融サービスの開発競争が激しさを増しています。

その代表例が「海外への送金サービス」です。現在、日本から海外の口座に送金する場合、海外の金融機関を経由するため数千円程度の手数料がかかり、送金が完了するには数日間かかることも多いのが実情です。それをブロックチェーンの技術を活用することによって、格段に安い手数料で365日24時間、即座に送金ができるサービスの実現が期待されています。

例えば、インターネット専業銀行の住信SBIネット銀行や地方銀行最大手の横浜銀行などは来年3月以降、国内外で休日も含めて24時間、直ちに送金できる仕組みを導入する計画を明らかにしています。みずほフィナンシャルグループなどの大手金融グループも、新たな送金サービスの実用化に向けた実験に乗り出しています。

仮想通貨や国際送金など金融サービスとの関わりが深いブロックチェーンですが、金融以外の分野への活用も期待されています。

経済産業省がことし4月にまとめた報告書では、応用が期待される具体例として、商品の在庫情報を川上から川下まで共有する効率的なサプライチェーンや、土地登記や特許など国が管理するシステムへの活用などをあげ、産業構造に大きな変化を与える可能性があると指摘しています。経済産業省は、ブロックチェーンが影響を及ぼしうる市場の規模は67兆円程度に上るという予測も示しています。

ただブロックチェーンの技術は、直ちに社会のインフラとして活用できる状況にはないようです。盗まれたのか、消えたのか。利用者の「ビットコイン」が消失した事案を覚えている方も多いと思います。

では、日本の「中央集権型システム」の代表的な存在といえる日銀は、ブロックチェーンをどう考えているのでしょうか。紙幣を発行し、独自のシステムで民間の金融機関と資金や国債の決済を行っている日銀は、こうした中央銀行の業務にブロックチェーンの技術を活用できないか、ことし4月に立ち上げた「フィンテックセンター」を中心に検討を進めています。

大手電機メーカーに出向した経験もある岩下直行センター長は「災害時のバックアップや証券決済にはブロックチェーンが向いているという議論がある。どこを改良すれば実現できるか、真剣に考えていきたい」と意欲を示しています。その一方で、「取引のスピードやサイバーアタックへの対応といった課題もある。従来できなかったことが何でもできるようになる魔法のツールとは考えていない」とも話しています。

東京証券取引所などを傘下に持つ日本取引所グループは、ブロックチェーンの技術に関する実験の結果を8月30日に公表しました。この中では、データの改ざんが不可能で「極めて魅力的」とする一方、現時点では取引を処理する性能が十分ではなく、「株式市場の売買のような大量の取引には課題がある」と指摘しています。